東京高等裁判所 昭和63年(ネ)25号 判決 1988年7月19日
控訴人 溝口壮六
右訴訟代理人弁護士 佐藤昇
被控訴人 渡辺泰彦
右訴訟代理人弁護士 小口恭道
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
理由
一 請求原因1ないし4の事実は、当事者間に争いがない。
そうすると、控訴人は、本件停止決定により、本案判決があるまでその強制執行が停止されている間に、訴外会社について和議開始決定がなされたため、手形判決を認可する旨の判決を得た後も強制執行をすることができなかつたところ(和議法四〇条)、その後、和議認可決定がなされ確定した結果、控訴人の有していた手形金債権もその一〇分の七につき免除の効力が発生し、結局、右手形金債権金三五〇万円から弁済を受けた金六四万円を差し引いた金二八六万円のうちの七割金二〇〇万二〇〇〇円につき弁済を受けられなくなつたことが認められる。
二 ところで、民訴法五一二条の二第二項によつて準用される同条一項の仮執行宣言付判決の執行停止のために供された保証は、本案判決(本件においては、手形判決を認可する旨の判決、以下同じ。)があるまで勝訴した原告が仮執行をすることができなかつたことによつて被ることのあるべき損害を担保するものであるが、右執行停止と損害との間には、相当因果関係が認められることが必要である。これを本件についてみると、前記のとおり、控訴人が債権全額までの満足を得ることができなくなつたのは、直接的には、本案判決がなされた時点においては、既に訴外会社に対して和議開始決定がなされていたために強制執行をすることができず、その後和議の認可決定が確定し免除の効力が発生したことに基づくものであると解される(もつとも、証人佐藤昇の証言及び被控訴人本人尋問の結果によれば、本件においては、仮執行宣言付手形判決後本件停止決定までの間に、控訴人が強制執行により債権全額の満足を得ることは、必ずしも不可能ではなかつたものと認められる。)。確かに、本件において、仮に本件停止決定がなされなかつたとすれば、控訴人が和議開始決定以前に、訴外会社に対して債権全額について仮執行をし、和議認可決定の確定前に本案判決が確定した場合には、その時点において仮執行が本執行となり、その効力が確定的なものになつて、控訴人が債権全額の満足を得ることができた可能性があつたものということができるから(本案判決確定前に和議認可決定が確定した場合にはその効力として、実体法上、和議債権者と和議債務者との間に設定された和議条件どおりの契約が締結されたのと同じ法律効果が生ずるものと解され、したがつて、本件に即していえば、手形金債権はその一〇分の三に減額されその余は免除されたことになるから、例えそれ以前に仮執行がなされていたとしても債権免除の効力が生じた部分については、民訴法一九八条二項に従い、和議債権者、本件でいえば控訴人が原状回復をせざるを得なくなることは、仮執行による給付によつては、実体法上、確定的な弁済の効力が生じないと解される以上、当然のことというべきである。)、本件停止決定と控訴人が債権全額までの満足を得ることができなかつたこととの間には、事実的な(条件的な)因果関係があるものということはできる。しかしながら、本件のように執行停止期間中に和議開始決定がなされ、かつ、本案判決確定以後に和議認可決定が確定するということは、執行停止期間中に一般的に生ずる事情ではなく、全く偶然に生ずる事情にすぎないものと解される。
そうすると、本件停止決定により控訴人が債権全額までの満足を得ることができなくなつたのは、右の偶然の事情によるものというべきであるから、本件停止決定と控訴人が債権全額までの満足を得ることができなくなつたこととの間には、相当因果関係はないものと解するのが相当である。
三 よつて、控訴人の本訴請求は理由がなくこれを棄却すべきものであり、これと同旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから、これを棄却する
(裁判長裁判官 越山安久 裁判官 鈴木經夫 浅野正樹)